研究内容

研究1 透析患者の Vascular Access機能評価に関する研究

Urea kinetic modelから算出される標準化透析量:Kt/Vは,慢性維持透析患者の長期予後規定因子であることが広く認識されている.しかし、一方でKt/Vはシャント部再循環による低下や体内不均一除去による過大評価の危険性が指摘されており,その取り扱いには注意が必要である.そこで我々は、採血により得られたKt/V実測値をもとに推定される有効クリアランス(effective CL:eCL)と,ダイアライザー側のクリアランス理論値(theoritical CL:tCL)との格差を算出する手法(CL-Gap法)を開発した.

VA機能不全が認められない場合には,ダイアライザーから除去される尿素窒素のクリアランス値(tCL)と生体側に有効に働いたクリアランス値(eCL)はほぼ等しくなり、結果としてCL-Gapは0近くになることが予想される.これに対して、VA機能不全症例では,ダイアライザーから除去される尿素窒素のクリアランス値(tCL)に対して,生体側に有効に働いたクリアランス値(eCL)が低下することにより、CL-Gapは上昇することが予想される.現在, VA機能不全症例を検出することを目的に, CL-Gapと穿刺針の脱・返血特性を用いたスクリーニング検査の有用性について検討を進めている.

  • Clearance Gap: Does It Really Matter for the Evaluation of Vascular Access Function?  Contrib. Nephrol. 189, pp246-251
  • CL-Gapを用いたVA管理.バスキュラーアクセスの治療と管理(大平整爾編)Pp98-105,東京医学社.東京,2011.
  • 透析量の質的管理法「クリアランスギャプ」の基礎”. クリアランスギャップの活用術(天野泉編).pp1-17,2011.

研究2 急性血液浄化法に関する技術的検討

集中治療領域において,敗血症性ショックは最も頻度が高く,かつ治療予後が最も悪い合併症である.この敗血症性ショックでは,一般的に warm shockといわれる末梢血管拡張性の循環不全を呈し,多量の昇圧剤を投与しても循環動態の改善が得られず,非常に治療予後が悪いことが知られている.この病態に炎症性サイトカインが重要な役割を担っているとの考えから,これらの炎症性サイトカインの積極的除去を目的に,中分子領域の溶質除去能力に優れる Continuous Hemofiltration(CHF)が用いられてきたが,十分な治療効果が得られなかった.このような状況のなか,我々は敗血症性ショック症例に対して,透析液流量を3.0L/hrから開始し,徐々に透析液流量を減量させる High Flow CHD( HF-CHD)を用いることにより,早期昇圧効果ならびに予後改善効果が得られることを報告している.このように,腎代替療法(CRRT)における血液浄化量の増加による治療効果を報告したのは,国内では我々の報告が初めてであり,その後,高血液浄化量のCRRTが国内で行われるきっかけになった.

その後の研究により,透析液流量の Initial doseは 60ml/hr/kg,開始5時間後より40ml/hr/kg,開始24時間後より20ml/hr/kgと減量することにより,循環動態の早期安定と透析液流量の減量に伴う循環不安定が少ない治療プロトコールを確立することができた.このような昇圧効果は,敗血症性ショック以外にも人工心肺術後の hyper-dynamic shock症例に対しても効果があることを確認している.

  • 敗血症性多臓器不全の病態と治療 敗血症性多臓器不全に対する治療戦略 血液浄化量の重要性について.ICUとCCU.27,s25-27,2003.
  • 各種持続緩徐式血液浄化法の特徴と適応 Continuous Blood Purificationにおける血液浄化量の変遷について.ICUとCCU.32,s56-S58,2008.

研究3 新しい医療機器の開発について

我々は,集中治療領域において透析液流量を増加させた HF-CHDを行うことにより,早期昇圧効果や治療予後改善効果が得られることを報告してきた.しかし,現状ではあまり普及していないのが現状である.この原因として,現在,CRRTの透析液として重曹補充液が代用されており,その使用量は保健診療で制約があることがあげられる.この問題に対して,我々は,透析原液を希釈し,調整することにより,透析液を作成し,CRRT装置へ持続的に透析液を供給する装置(持続的透析液供給装置)を提唱し,その開発を行ってきた.透析液の作成機構には,小型化,低流量化を目標に濃度 feedback機構を搭載し,連続運転時に危惧される伝導度計の劣化を検出する方法論についても検討を行い,特許を取得している.

さらに,現在,この持続的透析液供給装置の拡張として,呼吸・循環動態が悪い患者さんに対して,病棟で長時間緩徐な透析治療を行うことで,循環動態に悪影響を及ぼすことなく治療できるSLED(sustained low efficiency dialysis)や一部の透析施設や海外における在宅血液透析で行われている夜間睡眠時透析(Nocturnal Hemodialysis)を実現できる小型の透析装置の開発を行っている.また,日本急性血液浄化学会の倫理安全委員として,急性血液浄化法に関する安全体制の全国施設調査を行い,報告をしている.さらに,透析治療において最も危険なトラブルである抜針事故の早期検知,対応に関する安全機構についても研究を進めている.

  • 透析液調製装置の診断方法と透析液調製装置(特許番号:5803543 登録日:2015/9/11)
  • 血液浄化量の増加を目的とした持続的透析液供給システムの開発.ICUとCCU.32,s162-s165,2008.
  • 回路内圧モニタリング.ベットサイドで役立つ実践急性血液浄化法”.急性血液浄化法徹底ガイド.pp196-201,2011.
  • 急性血液浄化法の安全に関する施設アンケート調査.日本急性血液浄化学会雑誌. 5(1),pp108-112,2014.
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